俺が初めて鴨そばを食べたのは、都内の老舗そば店。ただ単に鴨肉を切って汁に入れ温めてそばにかけて提供されるもの。食べた時、硬い。肉が硬い。そして脂身が切ってそのまま汁の中に入っている。確かほとんど食べないで出てきたと思う。その後神田にあった名店「手打ちそば石井」で美味しい鴨そばを食べた。鴨は柔らかく誰でも食べられる鴨そば。このそばこそが俺が作るべき鴨そばだと思った。そこから作り初めて30年弱。お客さんからとろけるような鴨ですねと言われるそばを提供できるようになった。肉好きに共通するのは赤身が好きという事だと思う。鴨肉ももちろん赤身。だからできるだけその肉の旨味を逃さないように調理する事を考える。和食では鴨肉を焼くと血を肉から取り出す。俺はそれをしない。出来る限り肉の中に血を留めておきたい。血の味、すなわち鉄分の味が肉好きを好きなのだ。これって魚の鮪でも言えるのではないか。江戸っ子は赤身を食べて、トロは猫の餌にしていた。元来江戸っ子はまぐろの旨さを赤身に求めた。すなわち鉄分の味が好きなのだ。
